2018.01.01

 「霧の摩周湖」と言われるように、摩周湖は霧に包まれることで有名ですが、地元では7〜8月に霧が多く発生することが経験的に知られています。夏になると太平洋高気圧が発達し、釧路沖合の寒流との温度差で海霧となり、内陸に流れ込み摩周湖に入ってくるからです。霧には、湿った空気が山の斜面を上昇する際に発生する滑昇霧(かっしょうぎり)、夜間の冷え込みで発生する放射霧(ほうしゃぎり)、前線などで発生する前線霧(ぜんせんぎり)などがあり、摩周湖周辺の自然環境にはさまざまな霧が発生する条件があります。

 霧は摩周湖にさまざまな風景を描きます。夜間、霧が摩周湖に入り湖上が雲海となり、朝日を浴びながらゆっくり移ろう風景は、湖上の空気が目覚めていくように見え、日が昇ると次第にその霧は姿を消していきます。摩周外輪山で滑昇霧が発生したとき、外輪山の周辺から見ると山に雲がかかっている風景ですが、展望台では霧が入り摩周湖は姿を隠します。そのようなときに摩周湖に来ると「今まで通ってきた道は青空だったのに、摩周湖に来ると霧で見えなかった」という話になります。外から見ると雲、展望台にいると霧に見える面白さです。

 摩周湖は夏でも水温が低く、外輪山の内側は空気が冷えているため、外から空気が入ると気温差で霧が発生することがあります。霧に包まれていた摩周湖が晴れるときに、霧の間から見える摩周湖には躍動感を感じます。霧は大気の躍動を視覚化させ、思いもよらない姿を見せてくれます。

 摩周湖には自然の造形美があり、そこに霧がかかると一層、神秘的な世界が広がります。その風景は人の力では及ぶことのできない領域を感じさせ、自然に対する畏怖の念を起こさせるとともに、人をやさしい気持ちにする力を秘めているのです。

てしかが郷土研究会(藤江)